海外子女教育の現場から

 

国語教育が専門で、作文指導・スピーチ指導・言語表現指導もその専門の一つです。日本の学校教育の現場で実践を重ねて来ました。今、改めて海外在住の子ども達へ国語科教育、特に表現活動への指導をどのように行っているのか、その一端をご紹介致します。

「魚つり」というタイトルで、以下のように文集掲載作文を小学2年生が書き上げました。

 

魚つり 

                                 ダブリン日本子女補習校 小学部二年 齋藤 けいご(仮名)

 ぼくは、アイルランドではじめてつりざおをかいました。
前に日本で、きすやあじをつったことがありました。その時とてもたのしかった思い出があります。アイルランドではどんな魚がつれるかと思いました。
 そこでおとうさんにつりざおをかってもらいました。ぼくは、魚つりがすきになりました。なぜならば、いっぱい魚がつれるし、たのしいからです。
 むずかしいところはさおをひき上げるタイミングと、とおくにえさをなげることです。まつのはつまらないけれど、魚をつりたいからがんばることができます。魚がつれるときはつりざおがふるえます。そのときぼくは心の中で、やったとさけびます。糸をまいたら魚がつれます。そしてフックをぬいてバケツにいれます。
 家ではお母さんがに魚を作ります。とてもおいしいです。
いつか大きいさばをつりたいです。

 

この作文を書いた生徒がこの後、全校朝会でスピーチを行うことになりました。私はこの作文をベースにスピーチを行うのであろうと考えていました。ところが、お母さんは発表の一週間前に、別のテーマで新しい作文を仕上げ、それを発表させたいと仰ってきました。

しかし、なかなか子供が作文をうまく書けずに困っているというのです。そこで、私にアドバイスを求めてきました。私はどの様に返信したのでしょうか。

私の返信を以下にご紹介したいと思います。

 


齋藤 愛子 様(仮名)

いつもいつもお世話になっております、補習校の齋藤です。
けいごくんのスピーチについて、ご連絡ご相談頂き、誠にありがとうございます。

けいごくんのスピーチへ、お母様からもサポート頂けますことを、とても嬉しく思います。
その上で、私からのアドバイスも頂きたいとのご依頼を、有難く思います。

まず、シャムロックの掲載予定原稿「魚つり」ですが、この作文もとても生き生きと良く書けた、素晴らしい作文だと思います。
その事を、是非ともけいごくんに伝えてあげて欲しいと思います。

「魚つり」はアイルランドへ来て、初めてお父さんに釣竿を買って貰った喜びが書かれています。大好きになった魚を釣るドキドキ感などの自分の心の動きが、子どもらしく素直に生き生きと描写されています。
「魚がつれるときはつりざおがふるえます。そのときぼくは心の中でやったとさけびます。」の表現は秀逸です。

「つりざおのふるえ」はけいごくんの心の震えでもあるのですね。その震えるような喜びを、声には出さずに、心の中で「やったとさけぶ」けいごくんの、優しい繊細な気持ちが読む人の心を静かに打ちます。

さらには、それをお母様に美味しく料理して頂けるという、お父さん、お母さん、けいごくんの、家族の微笑ましい絆までもが描かれているのです。

なぜ、このような良い作文を書くことが出来たのでしょう。
それは、
・けいごくんがとても嬉しかったこと、楽しかったことを中心に書いています。

(自分の感動体験を中心に)
・「魚つり」との新しい出会いを中心に書いています。

(新しい出会いを中心に)
・お父さんに釣り竿を買ってもらい、お母さんに美味しく料理してもらえる喜びを書い

 ています。

(大切な人、ものを中心に)
・実際の釣りの方法と、その折々のけいごくんの心の動きを、分かり易く説明してくれ 

 ています。

(説明や描写も大切に)

大きくは以上の四点にまとめる事が出来ると思います。


作文の力を付けるために、「魚つり」をさらに、表現に工夫を凝らし、推敲しながら加除修正を加えるという方法もありますが、新しい作文に取組まれているようですので、以上の四点について書かれます事を、ご指導頂けますと幸いです。

どうして、また書かなければならないの?という疑問が心の何処かにあると、口には出さないかも知れませんが、子どもなりに、納得できず蟠りが残っていて、作文や表現活動の阻害要因になる事がよくあります。
その時にまずは、繰り返しになりますが、「魚つり」がとっても良かったので、自分の勉強になるし、お父さん、お母さん、そして担任の先生や、校長先生もけいごくんの、新しい作文を読みたくて、聴きたくてワクワクしているよ、とお伝え頂ければと思います。

私が作文指導、スピーチ指導をする時に、大切にしていること、基本的な事は、次の五つの言語意識と言われている内容です。
① 目的意識(なぜ、何のために書くのか)
② 相手意識(誰にむけて書くのか)
③ 方法意識(どのような発表の方法なのか)
④ 場の意識(それはどのような場で伝えるのか)
⑤ 評価意識(それはどの様に評価されて、振り返る事ができるのか)

上記の内容を、小学2年生なりに理解し、納得して書くことが出来ますと、効果的に作文への意欲も格段に増して、書き進める事が出来るようになると思います。

更には、より具体的な事ですが、最初から完成品を書こうとすると、なかなか筆が進みません。作文は大人でもとても難儀で厄介な作業です。
最初から原稿用紙に書き始めるのではなく、ノートやただの紙に、ラフスケッチのように、箇条書きや、項目、あらすじを断片的に書きつけるという作業をお勧めします。
「したこと」「やってもらったこと」「言ったこと」「見たこと」「聞いたこと」「思ったこと」等の項目ごとに書きつける作業です。その後、小学2年生段階では、大まかに「はじめ、中、おわり」で、構成を考えて書きつなげていくと良いと思います。

「題名の工夫」「印象的な書き出しの工夫」「効果的な会話の挿入」「効果的な情景描写」「余韻のある終末表現」「言葉の吟味」等は、今後、発達段階に応じて、学んでいけるものと思います。

全校朝会でのご発表を、作文指導の良い機会と捉えて頂けておりますことを、とても嬉しく思っております。
大変にお手数をお掛け致しますが、どうぞよろしくお願い致します。

 

ダブリン日本子女補習校・さくら幼稚園 齋藤

 

ご自身のお子様への作文指導。さらには教育現場における国語教室でのご指導に、日夜ご尽力戴いております、有為の指導者の皆様にとりまして、幾ばくかでも作文指導、表現活動のご参考となることを願っております。

 

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